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 冒険の合間に開店するベーカリーは、これまでのComoの生活をがらっと変えた。

営業する回数を増やすごとに、やってみようと思うことを試していくことも楽しく、バレンタインが近づけばチョコレートをおまけしてみたり、春には桜を店内に飾った。お店に来るたびにパンを買うこと以外に、何か思い出がお客様に残ればいいと思った。ベーカリーの閉店後は青い鳥がお客様の感想を拾ってきて聞かせてくれたので、誰もいなくなった店内で余韻に浸る時間を楽しむ時間が増えた。充実した時間はあっという間に過ぎていく。

そして新緑が萌える5月、ベーカリーの隣室が空室になった。

 もしもの他愛ない話をし、おしゃれなコーディネイトの研究を見せてくれて、

イベントの写真撮影や、朝までおしゃべり飲み会、数え切れない思い出を共に作った彼女は遠く海の向こうへ引っ越すことになったそうだ。このまま通信用の青い鳥を使った会話だけで顔も見れずに過ごしていくのか・・・・・・なんて選択肢はComoの頭にはなく、心の友よ!なんて乾杯して笑った日々をこれからも続けていこうと決意した。

今までのように簡単に会えないけれど、簡単じゃないだけで不可能ではない。

 Comoは少しずつ渡航用の支度をした。

彼女が暮らすことになった国、Alexander 滞在用の宿を手配した旨をモグメールで知らせると驚きつつも嬉しいと返事がすぐに返ってきて、繋がった縁を手放さずにいたかったと、話してくれた。

 こちらの持ち物は何も持っていけないので、向こうでの暮らしは身一つからのスタートだった。久しぶりに感じる不自由さ。チョコボを手に入れることさえままならない手持ちのギルと軍票。マーケットの様子も、居住区の様子も、まるで違っていて、異国へやってきたのだとホームシックになりかけた。それでも、ここで新たに生活を始めた彼女が根を張り暮らしていくのだと思うと、不思議と愛着も湧いてくる。

 季節のイベントやふとした夜中、足を伸ばして会いに行くことがComoのたまの楽しみになった。自分の身の回りのこともある程度整えて、不自由さから抜け出し、街の空気にも少しずつ慣れていた。冒険の合間に始めた製作採集は小遣い稼ぎのつもりでグランドカンパニーの依頼程度をこなしていた。

 暑すぎる夏が過ぎ秋の装いを始める頃、Comoの頭の中には(秋、食欲の秋、パンを食べてもらう秋、パン祭り、秋のパン祭り!お皿プレゼント!!!)と、お祭り騒ぎのキーワードがぐるぐる巡っていた。

散らかったアイデアをかき集めてまとめた内容はこうだ。

・対象商品はお徳用ウォルナットブレッド3斤入り。

・1つお買い上げごとに1ポイント(来店1回につき1ポイントまで)。

・期間中3ポイント貯めるとお皿セットプレゼント!

・貯めきれなくてもダブルチャンス!

・2Pは特製サンドイッチ、1Pはカララントと交換。

・ポイント貯める期間1ヶ月、ポイント交換期間がさらに1ヶ月

・ポイントはComo印の飴やマフィン、お魚パン等クロの手帳に貼り付けるシールをイメージ

・ポイント交換とは言いつつも、提示後は景品を受け取りポイントはおやつに♪

 近頃はクチコミでフレンドのフレンドさんが来店してくれることも少しずつ増え、

ここのパンを食べたらロットに勝てました!とか、魔紋開きました!とか、まことしやかな噂も囁かれ始めたことはComoの耳にも届いていた。今こそ、お祭り騒ぎをして楽しくて美味しいパン屋があることをアピールする時かもしれない!

ベーカリーを開店して一周年まであと4ヶ月、ひとつひとつ挑戦をしながら経験を重ねていこう。それに、パン祭りやるよ!って声をかけたら「何それ面白そう!」って絶対楽しんでくれる常連さん達ひとりひとりの笑顔が思い浮かんでしまった。

早くその顔を、反応を見たくて、Comoは広告作りと素材集めを開始した。

​                                つづく

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